よく、山で道に迷ったら方角を知るために、「切り株を見よ、年輪幅がひろい方が南」といわれます。しかし、これは、真っ赤とはいわないまでも、ほとんどの場合、嘘。下手に信じると、命をおとしかねません。
なるほど、
平地に一本の木が
ひとり立ちの場合は、日当たりのよい南側に枝がはり、年輪幅がひろくなる。
しかし、山のなかではそんなケースは稀。ほとんどの場合、まわりは競合する樹木があり、しかも斜面がおおい。上の言い伝えはあてはまりません。
その一つの証拠がこれ。
私がよく散策する与野公園で、最近、こみすぎた木の間びきできられた切り株です。年輪をかぞえてみましたが、40年過ぎの
ヒマラヤスギ:まつ科です。
さて、どちらが南?北? 上が南?
そうではありません。年輪のひろい上が北です。
南は競合する樹木ではばまれ、北に枝をのばした? そうでもありません。間びかれたほどですから、北にも樹木がありました。
このケースは、幹が北にかたむいていたようです。針葉樹は、幹がかたむくと、かたむいた幹の下面に大きい強い木材細胞をつくり、幹を立てなおす性質があります。じっさいこの木の場合も、切り株がやや北にかたむいていました。
斜面では、谷側に幹がたおれますから、針葉樹では、谷側の年輪幅がひろくなる傾向があります。
しかし、この法則が、すべての木にあてはまるわけではありません。広葉樹では、逆になるのです。かたむいた幹の上面の細胞が大きくなります。つまり、針葉樹では押しあげるように、広葉樹では引きあげるように、細胞をつくるのです。
これは、やはり40年ちかい広葉樹の
ポプラ:やなぎ科です。このケースも、上の年輪幅がひろい方が北です。
しかし、このポプラは、先のヒマラヤスギと逆です。南に幹がかたむいていました。南にかたむいた幹の上面、つまり北側の年輪幅がひろくなっているのです。
だから、斜面では、針葉樹とは逆に、広葉樹は山側の年輪幅がひろくなる傾向があります。
自然は、つくづく一筋縄ではいかない。言い伝えだからといって、あまり単純に信じてはいけません。