「マツダ車デザイン大絶賛ー連戦連勝の理由」ベスト・カー誌(https://bestcarweb.jp/news/56866)という記事を読んで、わが意を得たりということで久しぶりにブランド・ネタを書いてみる。
今年発売されるMazda3(日本名:アクセラ)が昨年11月のロサンジェルス・モーターショーでお披露目され、そのデザインでも大きな話題になっているようだ。しかもここ数年のマツダ車はメカもさることながらデザインが概ね好評価のようだ。いわゆる「マツダ・デザイン」。
ニューMazda3(日本名:アクセラ)(マツダHPより)
一般にマーケティングとは、「消費者のニーズ・ウォンツを市場調査で調べ、それに適応する商品を提供していく」がセオリーだと言われている。いわゆる「消費者志向」だ。
このセオリーがまったく間違っている。他社の真似をしてコバンザメ商法で刹那的に儲けるというのならいざ知らず、ブランドを育て、過当競争に巻き込まれず高い収益率で息長く独自の地位を築いていくには調査をしてはならない。
何度か触れたが(https://forestjo.exblog.jp/28126797/)、私が「解釈主義的ブランド論」という小難しい本を書いたのもその一点を言いたかったからだ。
それを本当に解ってもらうには拙著を読んでいただくほかはないが、結論からいえば市場調査で消費者が答えるニーズ・ウォンツはその時点ですでに顕在化しているもの(どこかに成功商品があり、消費者はそれを見て「私も、あんなのが欲しい」)であり、それでは後追い・人真似になる。それでブランドの独自の主張が出てくるはずはない。
これは、神戸大学の石井淳蔵元教授、栗木契教授、大阪市立大学の石原武政名誉教授などに源を発する新しいマーケティング観につながっている。
日本企業のブランド・マーケティング下手、類似商品による過当競争の原因を、私もこの間違った「消費者志向」のマーケティング観に見ているのだが、しかしその間違いを洞察・看破していた優れた経営者が日本の戦後にもいた。日本の戦後の世界ブランドの雄であった、「ソニー」の盛田昭夫と「ホンダ」の本田宗一郎である。
「わが社のポリシーは、消費者がどんな商品を望んでいるかを調査して、それに合わせて製品を作るのではなく、新しい製品を作ることによって彼らをリードすることにある。消費者はどんな製品が技術的に可能かを知らないが、われわれはそれを知っている。だからわれわれは、市場調査などにはあまり労力を費やさず、新しい製品とその用途についてあらゆる可能性を検討し、消費者とのコミュニケーションを通じてそのことを教え、市場を開拓していくことを考えている」盛田 1987年)
「なぜ物をつくる専門家が、シロウトの大衆に聞かなければならないのだろう。それでは専門家とはいえない。どんなのがいいか大衆に聞けば、これは古いことになってしまう。(中略)大衆の意表に出ることが、発明、創造、ニューデザインだ。それを間違えて新しいものをつくるときアンケートをとるから、たいてい総花的なものになる。ほかのメーカーの後ばかり追うことになるのだ」(本田 1993年)
盛田昭夫、本田宗一郎亡き後、両社にその洞察・気概が息づいているのだろうか?
さて本題に帰るが、上記の記事によればマツダ車のデザインのが良くなった切っ掛けが、まさに「デザインクリニックの廃止」だったという。
「デザインクリニックとは、事前にさまざまなユーザーにデザイン案を見せ、評価してもらうこと。ユーザーの反応を見ることで、ハズレをなくす効果がある。
しかし、一般ユーザーに判断をゆだねると、どうしてもデザインが無難になってしまう。デザイナーにすれば、『ユーザーが評価したのだから』という言い訳にもなりやすい」
そのクリニック廃止を決断したのが、今もマツダ車デザインを引っ張る 前田育男氏(常務執行役員デザイン・ブランドスタイル担当)だ。(氏の講演については、https://forestjo.exblog.jp/24703849/)
氏の哲学・信念と感性が、現在の一貫したマツダデザインを引っ張っている。いつまでもマツダのデザインに、ブランドに浸透し、息づいて欲しいものだ。