開花の遅かった今年の桜も満開になってきました。この、春の日本をサクラ色に染めあげるソメイヨシノが、全国同一遺伝子=クローンであるということは、ご存知でしょうか。
九州から北海道まで日本全国のソメイヨシノ、そればかりでなくワシントン・ポトマック河畔のそれも、接ぎ木だけでふやされたもので、したがって遺伝的には同一個体だという事実です。
しかしふしぎにおもえませんか。昆虫たちの送粉のおかげで、ソメイヨシノにも小さいサクランボがついていることがよくあります。その種子ではふやせないのでしょうか。
もちろんその種子もまけば、芽をだします。しかしもうそれは「ソメイヨシノ」ではないのです。
サクラ属などのバラ科は「自家不和合性」というメカニズムをもっています。つまりは自分の花粉では受粉せず、種子はみのりません。これはサクラが自家受粉による種の弱体化をさけるためにながい時間のなかで築きあげてきたメカニズムです。
「遺伝的には全国のソメイヨシノが同一」ということはそれらがすべて同一個体(自家)だということです。だからソメイヨシノのほかのどの個体から花粉がはこばれても、それは自家受粉になり受粉されないのです。種子がみのってもそれは、ことごとくソメイヨシノ以外の花粉の受粉によるものです。
葉がでるまえに咲き、花が華やかなだけでなく、みんな同一遺伝子の個体がその地域の同一条件下でいっせいに花をひらくためにソメイヨシノは見ごたえがあります。
また、桜前線の発表が可能なのも、これも全国同一遺伝子だからなのです。遺伝子が多様なら全国あちこちでマチマチに咲きます。