一度出来上がった森林が世代交代をして、新しい森林になることを「更新」といいます。「
No.0220 針葉樹と広葉樹は こんなに違う」で触れたスギやヒノキ人工林の植林による更新や、コナラ・クヌギ林の伐採後の萌芽による更新もそれに当たりますが、なにも更新は、そのような人工によるものばかりでなく、天然によるものももちろんあります。
本白根コース歩きの中で、そのような天然更新の現場を目撃しました。今回の白根高原シリーズ第四弾、その最後です。
その一 倒木更新 高山で標高が上がっていくと、シラビソ、オオシラビソ、コメツガなど針葉樹が優占する亜高山帯針葉樹林というのが成立しているところが多くあります。そこでよく見られる更新の一つ。倒木更新。
寿命が来て枯れて倒木した木の上に稚樹が育ち、世代交代をしていくのです。このようなところでは、下の土の中にはしばしば稚樹にとって有害な菌がうようよしています。だから土の上で生えた稚樹は菌に冒されて枯れることが多いのです。また笹などが生えていて陽光に乏しい場合も多い。しかし、このような倒木上では、その危険を免れることができます。さらに芽生えた時から、倒木の直径分だけ下駄を履かせてもらって上にいますから、地上に生えた競争相手よりスタート時から有利。地盤、看板を受け継いでいる二世政治家のようなものです。
このような森林を歩いていて、ほぼ同じ年齢の木が、線上に並んで育っているのを見かけることがよくあります。それは、この倒木更新による場合が多いのです。また根が何かを跨いだような蛸足になっている木がありますが、それもこの倒木更新による場合が多いのです。倒木の上で新世代の木が育ったあとで、倒木が腐り空洞となるからです。
旧世代が犠牲となって新世代を育てる。なにか人の世を思わせます。いやわが子を殺す親がいる昨今の人世より麗しい?
その二 ギャップ更新
原生林や、それに近い老齢林では、林冠がふさがって(欝閉という)林床が暗く、そこに芽生えた稚樹も光不足で育つことができません。
そのような森林で、このように大木が枯れたり、倒れたりする(根がえりする)と、そこにぽっかりと穴が出来ます。このような穴をギャップといいますが、そうすると林床に光が届くようになります。写真では大きさがよく解りませんが、この根がえりも直径5~6mはあります。空いた林冠も直径数十メートルはあるでしょう。
こうした空間が出来ると、周りから種子が飛んできたり、埋まっていた種子(埋土種子という)が芽生えたりします。もちろん光も充分ありますから、陽樹などの稚樹の成長も旺盛です。
古い森林の中で、部分的に若い木が固まって育っている、それは、このギャップ更新によるものと見ていいのです。原生林でも、このようにパッチ状に世代交代をしながら、全体としては定常安定しているのです。