野山は、すっかり秋の気配。
身近な里山も、「ドングリころころ」の季節。ドングリは、子どもたちが遊ぶだけのものではありません。今回は、大人のドングリ・ウンチク物語です。
はじめに、ドングリ・クイズです。
四つのドングリがならんでいます。名前がわかりますか。
左から
クヌギ、マテバシイ、コナラ、スダジイです。
問題-この中で、渋み(タンニン)がなく生でも食べられるのは、どれでしょうか。
答え-
マテバシイと
スダジイ
おいしいのはスダジイ、大味でもう一つなのがマテバシイ。
しかしマテバシイも、ナッツ代わりにクッキー材料などには充分です。
これらのドングリがなる木は、いずれも
ぶな科。専門的には、このようなドングリを
堅果といいます。植物の果実は、多くの果物のように種子のまわりをやわらかい果肉が包んでいますが(液果、核果)、このドングリ類は、それがなく、全体が種子なのです。
それぞれを見ていきましょう。
クヌギ
落葉高木です。炭や薪に最適だということで、コナラとならんで、昔は里山で大事にされました。お茶会で使われる菊炭は、このクヌギを焼いたもの。
やや湿潤な土地に向いています。だからクヌギがあるところは、そこは地下水が高い場所であることがわかります。
ドングリといえば、このクヌギだけを指す地方もありますが、大きさ、形ともに、日本のドングリの王様。「♭どんぐりコロコロ♯」の歌のドングリは、このクヌギでしょう。
マテバシイ
常緑高木。ドングリも大きく、クイズでも言ったように生でも食べられるということから、昔は、里の近くに救荒作物として植えられたようです。今では、公園樹などとして都会でも植えられています。
名前の由来は、細長い葉が、貝のマテガイに似ているから「
マテ葉シイ」という説と、もう一つおいしくないが、「
待てば、シイくらいにはなる?」という両説があります。「明日はヒノキになろう」の「アスナロ(ヒバ)」の由来となにか似ていますね。
コナラ
ご存知、里山の代表樹種。クヌギとならんで、落ち葉は堆肥に一番いいし、薪や炭にも、またシイタケほだ木にも最適ということで、もっとも重宝されてきた木です。
スダジイ
常緑高木。葉は厚い皮質で裏が金茶色なのが特徴です。だから、葉裏が見える木の下から見上げると、茶色いので、よくわかります。また春先には、全体に煙ったような花をつけ、クリに似た独特の匂いを遠くまで漂わせます。
スダジイは宮城県くらいまでは分布しますが、もっと粒が小さくておいしいツブラジイは、関東以南。
さて、最後に、大人のドングリ遊びのススメ。
ぶな科の木々は、今頃から、ドングリをさかんに落とします。それを拾って鉢の中に撒いてください。そうすれば、来春、写真のような寄せ植え盆栽ができます。鉢の上に、武蔵野のミニ雑木林。落葉樹のコナラ、クヌギが四季の変化があっていいでしょう。
ただコツは、振ってみてカラカラと音がしない、落ちたばかりのドングリを拾うこと。ドングリは一度乾くと芽生えません。
この性質は、種子の散布に、ネズミやリス、鳥のカケスなどの習性を利用することから、進化してきた?
ドングリが、そのまま親木の下に落ちて芽生えたのでは、親との激しい生存競争が避けられません。そのため、ただ下に落ちただけでは、乾いて芽生えなくさせたのです。
冬に備えて食料を貯蔵する習性を利用して、ネズミやリスに運んでもらい、湿った落ち葉の下や土の中に隠してもらって、食べ忘れたものだけが、芽生える。このように、動物の貯食行動によって運ばれ、食べ残しから発芽する植物の種子散布戦略を、貯食散布といいます。そうすると親と生存競争することなく、動けない植物も動ける。
大半の種子は食べられても、一部でも生き残ればいい。「骨を切らせて・・・」ではありませんが、植物の涙ぐましい、壮絶な戦略です。
それでも、コナラやブナなどの堅果をもつぶな科は、日本の森林でもっとも繁栄している樹種です。