原因(目的)と結果の逆転(2006年4月21日)
今回は、タンポポの話です。というより、タンポポをダシにつかった因果の逆転というややこしい話です。
写真のように、タンポポは、花のときには花をささえる花茎はみじかく、種子が熟すころになると花茎(首)をながく伸ばします。
なぜでしょうか?
それは、種子を遠くへ飛ばすためです。
地面から高いほど種子をはこんでくれる風もうけやすく、また高い位置からはなれるほど、種子は遠くに飛ぶことができます。遠くに飛ぶことができれば、新天地にもひろがる確率も高く、種族繁栄の可能性も大きくなります。
もう一ついうと、寒い時に花を咲かせるときはできるだけ地表にぴったり張りつき、太陽に暖められた地表の暖かさを受けて花の温度を上げ、花粉媒介の虫たちを呼び寄せます。
このように、タンポポが花を咲かせる時は短く、種子を実らせる時は花茎を伸ばすという芸当は、種族が繁栄していくうえで、きわめて「合理的」(よりむずかしくいえば「合目的的」)です。
あたかもタンポポが目的をもって、すなわち種子を遠くへ飛ばしたくて(その意図が「原因」となって)、そのようになってきた(「結果」をもたらした)ようにおもえます。
しかし、そうではないのです。ここに因果の逆転がひそんでいます。それは、あくまでも「結果」でしかありません。いうならば、「結果」から「原因」ができてきたのです。
進化は、
偶然の突然変異からおこります。あるとき、花がおわったあと花茎を伸ばすという「突然変異」の遺伝子をもったタンポポが、
たまたまあらわれました。そうすると、その個体の種子は、ほかの個体のものより、遠くへたくさん飛ばされました。
すると、おのずから、その子孫は、ほかの個体の子孫より、繁栄しました。このように、環境に適合した(より強い性質の遺伝子をもった)ものたちの系統は、より強くなります。これが適者生存の「自然淘汰」です。
ここに目的(原因)と結果の逆転がおこる秘密があります。
突然変異という偶然の結果、また自然淘汰という自然現象の結果、かたちづくられてきた性質が、あたかも、その種が繁栄するために、意図して(目的をもって)獲得してきたようにみえる秘密があるのです。 その秘密のカギは、タンポポが進化してくる過程の、気の遠くなるような時間のなかでおこった突然変異と自然淘汰のつながりにひそんでいるのです。環境に適合した遺伝子をもったものだけが生きのこってきた結果、みずから意図をもって進化してきたようにみえるのです。
これは、タンポポだけでなく、すべての生物の進化にひそんでいる秘密です。
それでも、まだタンポポの進化は、何百万年、千万年単位の話でしょう。タンポポのような「花」をつける被子植物は、誕生から1億年ちょっとです。