このところの谷崎ワールドの前回の続きで、お粗末な一席を。
昨年11月に、築地場外市場に
晒し鯨(別名:
おばいけ、花くじらなど)を買いに行った話を書きましたが、その時にレシートを提出して籤に応募していましたが、その籤が「三等賞」となり、¥1000の商品券が送付されてきました。
東京の歯科に行ったついでに場外市場に足を伸ばし、また晒し鯨(¥960)をいただいて帰りました、
「No.1299 日本酒に最も合うアテ」でも書いたように、私はこの晒し鯨が日本酒のアテとして最も好きなものの一つ。
このところ読んでいる谷崎本の中にこんな一節があった。
大谷崎の孫(渡辺千萬子さんの娘)・渡邊たをり著「花は桜、魚は鯛―祖父谷崎潤一郎の思い出」(中公新書)
「花くじらも春から夏にかけての食べ物でしょう。白いヒラヒラした花くじらに酢みそをつけて食べるのも祖父は好きでした。子供のころ、私はくじらだというブヨブヨした白い食べ物が気味が悪くて、手を出しませんでしたが、あとになっておいしいものだということがわかりました」
「瘋癲老人日記」にも、次の一節がある。
予定通リ六時浜作着。淨吉ノ方ガ先ニ来テイル。婆サン、予、颯子、淨吉ト云ウ順ニ腰カケル。淨吉夫婦ハビール、余等ハ番茶ヲタムブラーニ入レテ貰フ。突キ出シニハ予等ハ滝川ドウフ、淨吉ハ枝豆、颯子ハモズク。予ハ滝川ドウフノ他ニ晒シ鯨ノ白味噌和エガ欲シクナッテ追加スル。刺身ハ鯛ノ薄ヅクリ二人前、鱧ノ梅肉二人前。鯛ハ婆サント淨吉、梅肉ハ予ト颯子デアル。焼キ物ハ予一人ダケガ鱧ノ附焼、他ノ三人ハ鮎ノ塩焼、吸イ物ハ四人トモ早松ノ土瓶蒸シ、外ニ茄子ノ鴨焼。
食魔・大谷崎も晒し鯨が好物だったと知って、追っ駆けファンとして嬉しくなった。
たったそれだけの話、お粗末の一席。
上の話とは関係ないが、おまけに、上の引用に続く、いかにも「瘋癲老人日記」らしいキワドイ一節を。
「オ爺チャン、コレ召シ上ッテ下サラナイ?」
颯子ノ前ニ鱧ガソックリ残ッテイル。彼女ハ残リヲ予ニ食ベサセル積リデ、ホンノ一片カ二片食ベタダケデアル。実ヲ云ウト予モ彼女ノ喰イ残シガ廻ッテ来ルコトヲ予期シテ---或ハソレガ今夜ノ目的デ---ココヘ来タノカモ知レナイ。
「困ッタナ、僕ハトウニ食ベチャッタンデ、梅肉ヲ下ゲテ行ッチャッタンダ」
「梅肉ダッテココニアルワ」
ト、颯子ハ鱧ト一緒ニ自分ノ梅肉ヲ廻シテヨコシナガラ、
「梅肉ダケ別ニ取リマショウカ」
「ソレニハ及バナイ、コレデ結構」
颯子ハタッタ二片ダケシカ食ベナイノニ、梅肉ガワリニ穢ラシク喰イ荒ラサレテイル。女ラシクナイ食ベ方デアル。或ハコレモワザトデハナイカト思フ。
「ココニ鮎ノ腸(ワタ)モ取ットキマシタヨ」
ト、婆サンガ云フ。婆サンハ焼鮎ノ骨ヲ綺麗ニ抜クノガ得意ナノデアル。彼女ハ頭ト骨ト尾トヲ皿ノ一方ニ片寄セテ、身ヲ一片モ残サズニ猫ガ舐メタヨウニ食ベル。ソシテ予ノタメニ腸ダケヲ残シテオクノガ習慣ニナッテイル。
「ワタクシノモゴザイマス」
ト、颯子ガ云フ。
「ワタクシハ魚ヲ食ベルノガ下手デスカラ、オ婆チャンノヨウニ綺麗デハゴザイマセンケレド」
颯子ノ鮎ノ残骸ハ成ル程マコトニキタナラシイ。梅肉以上ニ喰イ散ラサレテイル。コレモ意味ガナクハナイヨウニ予ニハ取レル。