白神・暗門ブナ林散策コース
ブナ、いまや大人気の樹です。
しかし、昭和40年代くらいまでは、あまり人気がありませんでした。それは、木材として腐りやすい、狂うなどといった弱点があったからです。だから、漢字も「木では無い」=「橅」という字が当てられたほどです。パルプやコンクリート・パネル用としてさかんに伐られ、スギやヒノキ、カラマツなどの林に変えられていきました。
もともとブナは、日本でも最も大量にあった樹の一つではないかと考えられています。南の九州から北海道・渡島半島を北限に、日本列島いたるところにありました。
それは、日本列島の多くのところで、放っておくと最後に到達する「極相林」というものの中心になる木がブナだからです(コケや草からだんだん大型の木に代わり、最後に安定した森林になることを「遷移」といい、その最後に到達する森を「極相林」という)。
しかし、大量に伐られ、気がついてみると、もうあまり残っていませんでした。白神も、林道が切り開かれ、伐られようとしたところで、待った!がかかり、保護されるようになりました。世界でも最大級の貴重なブナ林だということから、1993年、
ユネスコ世界自然遺産に登録されました。
何が、ブナの人気を高めたのでしょうか?
ブナの森がもつ、さまざまな働きが再認識されたことが、その理由なのです。
景観、水源涵養、生物多様性保全などの「
公益的機能」です。白神が世界自然遺産に登録されたことも、人気の後押ししたのかもしれません。
まず、新緑、黄葉も美しく、夏でも明るい森は散策にも最適です。幹もすべすべと白く、趣きがあります。
それにもまして、ブナ林の大切な働きは、水源涵養です。ブナは、葉の量も多く雨をたくさん受け止めます。また、葉が適当に堅く、腐りにくいために落葉層や腐葉土も厚くなり、水を大量に貯め込みます。普通の落葉樹の葉が2~3年で腐るのに対し、ブナの葉は3~5年かかるといいます。それだけ厚くなるのです。
生物多様性保全も、ブナ林の貴重な働きです。
ブナは大木になるため、その下は中高木、低木、林床植物など森は何層にもなり、植物種も豊かです。植物が豊かなら、それを食料とする昆虫、鳥などの動物種もおのずから多くなります。クマゲラ、イヌワシなど希少種も多くいます。
このように、ブナは姿が優しく、多くの生物を育むため「森の母」と呼ばれます。
マザーツリー
今年の芽生え。昨年は、実が豊作だったとのこと(ガイドさんの話)。下についているのが双葉
前々回、
マザーツリーの話をしましたが、ブナは、一本の木が一生のうちに400万個の種子を作るといいます(ガイドさんの話)。その栄養豊かな種子の多くは、動物たちの餌となって食べられ(人間が食べてもおいしい)、その残ったものが、このように芽生えて、次世代となっていきます。しかし、それでもまた葉が食べられたり病気にかかったりで枯れて、実際にふたたび何百年と生きるのは、一本の木から一本もないといいます。
ブナは、このように無償の愛を与えながら、それでも、その豊穣の森はいつまでも続いていくのです。