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ヒトは森の動物――生物としてのヒト その②
・それでは、ヒトとチンパンジーはどう違う?
前回に見たように、ヒトが森の中で進化してきたというところに「人間が森の中に入るとなぜ安らぎを感じるのか」の回答があるように思います。ヒトとなる前の何千万年は、私たちの直接の祖先は森の中の樹上生活者だったのです。森の中で安らぎを感じるのは、遠い祖先からの深層記憶なのではないでしょうか。
こうした深層記憶は、言葉や文字を作り出した昔の人にも影響したのでしょうか。人と森の関係を、たとえば「休」という漢字や「forest(森)」という語の成り立ちから見てみますと、それが伺えます。前者では「人が木の傍にたたずむ」ことによって安らぎが得られるのが「休み」、後者では「安らぎに向かう(for rest)」のがforest(森)となっています。
それでは、チンパンジーとヒトを分ける1.2%の遺伝子がもたらす違いは、なんでしょうか。なにが変わることによって、ヒトとなったのでしょうか。
従来から、ヒトとサルたちとわけるのは、知能が発達している、言葉を話す、道具をつかう、火をつかうといったいろいろな説がいわれてきましたが、いまでは、上に見た三番目の体の特徴をより発展させた「直立二本足歩行」が、両者をわける天下分け目のキー・ポイントだというのが、ほぼ一致した見方のようです。
たんに二本足歩行であれば、そうした動物はたくさんいます。鳥、カンガルー、昔の恐竜の多くもそうです。 しかし頭から足までが一直線になる「直立」二本足歩行をするのは、ヒトしかいません。他の二本足歩行動物は、足と胴体がカタカナの「イ」の形でつながり、頭が前に出ています。
直立二本足歩行のおかげで、他の動物からいえば異様に大きい脳を入れた頭を直線上に脊椎で支えることができた、手が歩行から開放されたため自由に使え、しかも母指対向性のせいでものがつかめるために道具製作が可能になった、逆に手を使うことが脳の発達を促がし知能を発達させた、さらには、直立することにより喉に空間ができ発声が自由にできるようになり言葉を使うようになった、といいます。
これまで言われてきたさまざまな特徴、すなわち、知能が発達している、言葉を話す、道具をつくるなどは、直立二本足歩行が原因となった結果だということがその後の研究の過程でわかってきました。
ちなみに、なぜヒトは直立二本足歩行になったか。それは、以前にふれたアフリカ大陸の下でプレートができるという話が関係しているようです。東アフリカには、地球内部からマグマが噴出してくる、南北に走る大地溝帯があり、それによってキリマンジャロなどをふくむ山地ができたために内陸地が乾燥し、熱帯雨林が消え、疎林しかないサバンナになった、それでしかたなく樹上からおりて地上を歩くようになったというのです。
ヒトの誕生も地球内部の動きが生物に作用した、巡りめぐった因果の輪のせいなのです。最初の直立二本足歩行のヒト―猿人が誕生したのは、アフリカの内陸といわれ、約500万年前です。
私たちヒトも、いかに自然界の一員であるかが、実感をもって見えてきたでしょうか。